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大立ち回りに歓声 中尾歌舞伎 伊那で定期公演
2025年4月30日
伊那市長谷の中尾地区に伝わる伝統芸能「中尾歌舞伎」の定期公演が29日、地元の中尾座であった。1961(昭和36)年に伊那谷を襲った豪雨災害を題材にしたオリジナル作品「三六(さぶろく)災害半世紀」を13年ぶりに上演。中尾歌舞伎保存会員の熱演に、会場は熱気で包まれた。
土石流で妹を亡くした兄が10年後、再び発生した災害に立ち向かう粗筋。土石流に見立てた「泥の大蛇」と立ち回る見せ場では、主人公と助けに入った親戚が大蛇を退治。おひねりが飛び交ったほか、観客が役の名前などを叫ぶ「大向こう」で盛り上がった。
作品は災害の記憶を後世に伝えようと、発災から半世紀の節目に創作。中尾歌舞伎唯一のオリジナル演目として、2012年に披露した。原作を手がけた元国土交通省天竜川上流河川事務所長で、現在国交省砂防部長の草野愼一さん(58)は「想像の斜め上をいく出来で、楽しませてもらった。皆さんにも面白いと感じてもらえたのでは」と話した。
三六災害では、旧長谷村でも三峰川の氾濫や土砂崩れなどが発生。3人が死亡し、集団移住した地域もあった。今回は国内外で自然災害が多発する中、郷土の出来事を通して改めて考える機会に—と上演を決めた。中村徳彦代表(65)は「お客さんの反応が良く、盛り上げてくれた。いつ災害が起きてもおかしくないので、防災意識を高めてもらえたら」としていた。
中尾歌舞伎は江戸時代中期の1767(明和4)年ごろ、旅芸人が披露した歌舞伎を村人がまねたのが始まりとされる。その後、戦時中に途絶えたものの1986年、伝統文化を残そうと地域の若者たちが復活させた。上伊那地域で続く唯一の地歌舞伎とされ、現在は保存会に所属する伊那市を中心とした小学3年生から70歳代までの会員38人が定期公演を続けている。(写真は土石流に見立てた「泥の大蛇」と立ち回る主人公)