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かつての製糸工場が養蚕事業化を模索

2017年9月28日

製糸工場が養蚕模索

 かつての製糸工場が、将来的な養蚕の事業化を見据えた試みを始めている。岡谷市湊4、味澤製絲の代表取締役社長、味澤宏重さん(62)は蚕約4500頭を飼う。餌や環境を変えながら成長速度の違いを見たり、量産への課題を探ったりと試行錯誤。国産繭のブランド力に可能性を見いだそうと模索を続ける。
 社屋内を進むと、蚕具の一つ「蔟(まぶし)」が見えてくる。糸を吐くようになった蚕を移し入れ、繭を作らせるためのものだ。温度や湿度を一定に保って人工飼料を与えたり、昔ながらの桑の葉をやったりと条件を変えて面倒を見る。味澤さんは「繭を作り始めるタイミングを合わせるのが難しい」と話す。
 蚕を育てるのは素人といい、従業員の手を借りることもあったが「事業として成り立つか、経験してみて考えたかった」と時間の許す限り自分で手を掛けてきた。事業化には最低でも2万頭は必要と試算し、「人工飼料ではコストがかかり過ぎるし、それだけの桑の葉を管理できるか」と課題も口にする。
 岡谷蚕糸博物館によると、市内では明治から昭和にかけて養蚕農家が栄えたが、製糸業の衰退で昭和40年代には多くが果樹や花きに転換。50年代には途絶えたという。高林千幸館長は全国には繭を工場生産している例もあるとし、「基盤ができ、繭が自社製となれば付加価値も生まれるのでは」とエールを送る。
 同社は1912年に創業し、98年には製糸業を廃業。99年からシルク製のインテリアの商品開発などを行う。食品や化粧品などとして繭の活用が進む現状を踏まえて「安全安心を求める消費者に、国産繭の需要はあるはず」と味澤さん。養蚕農家が希少となる中、新しい形の養蚕の確立へ挑戦は続く。
 
(写真)蔟(まぶし)で繭を作る様子を見守る味澤さん